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音と珈琲のお部屋 cafe&bar「音屋」。 浦添牧港でムジカは今日もお留守番。 誰か遊びに来ないかなぁ。
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『扉』



この町には何件かのバーがある。

中でも私のお気に入りは
家からほど近い
この『名もなきバー』


今日も
この『名もなきバー』の同じ座席で

いつものお酒を飲んでいる。


いつもと変わらない味
いつもと変わらない音楽
いつもと変わらないマスター



…唯一、いつもと変わっているところと言えば



隣の席で一人、真っ白な箱を大事そうに抱えながら
うつむいたままウィスキーをストレートで飲んでいる初老の男性だ。




地元のお客が多いこの『名もなきバー』では
こういったお客に対しての免疫が無いに等しい。
まるで新型ウィルスのように感染率が高く、
一度感染してしまうと
お店全体が『彼』の一挙一動に左右される事になる。



この日も当然感染した私たちは、
お尻の辺りがむずむずする違和感に
何度も襲われながらも
『彼』に流されないよう、
いつもの仲間と他愛の無い話を続けていた。


そんな他愛の無い話も終盤に差しかかった頃、
過信した私達を出し抜くように、
長い潜伏期間を保っていた『彼』が
突然、動き出した。




「マスター、すまんがこの箱を1時間だけ、預かってくれんかね。」
(コニー)


「…むしろ…1時間ですか?」と
マスターは攻めの質問を返した。
(YNB)

すると
その初老の紳士は口元に笑みを浮かべ、
じゃあと右手を軽く上げ『名もなきバー』を出て行った。

マスター含めその場にいたみなの肩が
心なしか下がった様に見えたのは私だけではないはず、
一気にみなの口が動き出し
さっきまで張りつめていた空気が緩んだ。



「ねぇ〜、大丈夫なの?預かっちゃってぇ〜」
カウンターの端にいた敬子さんがマスターに言った。


敬子さんは近所の主婦でストレスがたまるとやって来る、
今日は白ワインを飲みながら愚痴っていた。


「ねぇー、それ何なの?」
箱をタバコを挟んでいる指先でさした。


マスターは

「ですよねー
でも断れる雰囲気じゃなかったですよぉ〜」
と、白い箱を手にその箱を何処に置こうか、右に左にウロウロしていた


「何なんですかねぇー、軽いですよぉ」

今度は箱を上に下に動かした。
(mika)


何か入ってるのはわかるけれど、目に見えた手応えがない。
例えるなら羽毛の様なもの。

マスターは、さらに白い箱を念入りに見回した後、
ハッとしたように顔をあげ
白い箱をリキュール棚の横に
申し訳なさそうにそっと置いた。

息をのんで見守っているギャラリーに、というよりも
自分に言い聞かせるように言葉を発した。


「駄目ですね、不意の事とはいえ、預かりものですもんね。」


私達もなんだか急に恥ずかしくなり

「そうですよね、買い物に行く為に置いていったかもしれないし」
「うん、割れ物だったら大変」
「置いとこう置いとこう。なんだか詮索するのもいやらしいし」
「1時間で戻ってくるって言ってたしね」
「そうだよ。……ねぇさっきの話なんだけど…」と
気になりつつも他愛の無い話に軌道修正をする。

私達はしばらくの間、
ちらちらと白い箱の存在を確認しながら話すものの
お酒を飲んでいるせいか、話が盛り上がったせいか、
いつの間にか白い箱と初老の男性の存在は、
『名もなきバー』の日常の一部と化し、
私達の視線と話題から、
もっとも遠い場所へと移動されていた。




そう、
空が白くなったのを確認するまでは。




「あれ?…むしろ4時間ですか?」




その日、初老の男性が戻って来る事はなかった。
(コニー)


vol.2へ続く…
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コメント
無題
「…むしろ…1時間ですか?」とマスターは攻めの質問を返した。
【2008/12/07 23:13】 NAME[YNB] WEBLINK[] EDIT[]
Re:無題
返信しました★
ばらばらにきたmikaちんと話が続きました。
素晴らしい!
【2008/12/08 14:13】
無題
あれから40年…
【2008/12/09 19:06】 NAME[YNB] WEBLINK[] EDIT[]
Re:無題
ながっ!
ながっ!
よく月9である3年とかじゃないんや!!
40年ながっ!
世代交代やん!あはは☆

めっさ笑ってしまいました。

みなさん、がんばって続けて下さい…。
【2008/12/09 19:45】
無題
マスターの両の手は皺が幾筋も寄って、髪の毛はすっかり真白。
生涯をお酒と夜のために捧げた男だ。秘密が無いはずがない。
そう、わたしたちはちょうどあのおじいさんと同じくらいの年齢になっていた。

「あの日、結局あの箱を朝まで取りにいらっしゃらなかったんです。
どうしようかと思ったのですが、そのままにして私は、店を閉め始めました」

喋るのが苦手なマスターは、何度も口ごもる。
わたしはそんなマスターを待つことを心得ている。これも、年月の成せる業だ。
「1週間後だったんです。あの箱を取りにいらしたのは、おじいさんではなく
お孫さんでした。祖父が永眠しましてと、挨拶されたんです。
ちょうど店にいらした翌朝のことだったみたいです。

おじいさん、ほうぼうに形見わけのつもりで箱を置いて行ってたらしくて、
でもそれを置いて行った場所が、なんというか、ちょっと変わっているんです」

ほら、うちだって、初めていらしてたじゃないですか、とマスターは言った。
そうだ、おじいさんにゆかりのある店ならともかく、
『名もなきバー』にとっては初めての客だったはずである。

いったい、どんな形見だったんだろう?
【2008/12/09 21:35】 NAME[園] WEBLINK[] EDIT[]
Re:無題
キターwww
園ちゃん
忙しい中ありがとう!!!!!

箱が開く日が楽しみです。
【2008/12/09 22:49】


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プロフィール
HN:
MUSICA
年齢:
17
性別:
女性
誕生日:
2008/01/06
職業:
店長代理
趣味:
翻弄
自己紹介:
気ままな日々に喜びを。

毎日20時から
ひっそりお留守番。
お酒はもちろん
自家焙煎珈琲や
エスプレッソ
ナポリピッツァ
トリッパ
自家製スコーンに季節のジャムで
こっそり夜カフェ&バー始動中。

場所:浦添牧港
目印:深緑のミニクーパーと丸大スーパーさん

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